９月２３日
	サラダ食え
	控室で、ヒマな時間、「総力生放送スペシャル・事件の最前線直撃２４時」 を見る。私はこの手の番組の大ファンで、もちろん家ではちゃんと録画もセッ トしてきた。 　電車の痴漢男を婦警さんが現行犯逮捕する瞬間とか、未解決殺人事件の情報 提供を呼びかける遺族とか、轢き逃げ犯を徹底捜査で追いつめていくのとか、 失踪児童の謎を検証とか、そういうのが大好き。ワシの下種な好奇心を大いに くすぐってくれる。 　こういう番組では、「ぼったくりバー」はお約束だ。 　こうやって何度テレビで放送しても、ぼったくられる男って後を絶たないん だよな。ホント、男ってバカだわ。 　会ったばっかの女が「知ってる店あるから飲みに行こう」って言ったら、そ の時点で気づけよ（笑）。 　ぼったくられるほうがバカだ。まあ、一度くらいぼったくられたほうが、人 生は深みが出るのかもしれない。何事も勉強ってやつですか。 　ケンちゃんのことを思い出した。 　ケンちゃんは、私が新宿で働いていたときの知り合いだ。夜の新宿駅でナン パされて、その日のうちに寝た。 　ケンちゃんは、ぼったくりバーで夜ごと、カモから金を巻き上げる仕事をし ていた。 「サラダ食え」が、彼の口癖だった。 　ケンちゃんの部屋に泊まりに行っても、私もケンちゃんも料理なんか作らな い。腹が減ったら、コンビニから食料を調達する。 「おめえ、生活が不規則なんだから野菜ちゃんと食えよ。な、サラダ食え、サ ラダ。ほら、いっぱい買ってきたぞ」 　あのカップ型のやつを、一度に三個は買ってくる。 　コンビニサラダなんか食べたって、野菜の補充にはならない。そうはわかっ ていても、私は言わなかった。 　生気のないレタスをパリパリ食べる私を、満足そうにケンちゃんは見る。 　ケンちゃんの気性の荒さは並じゃなかった。 　街で肩がぶつかると、「てめー！　コラ！　おう！」と怒鳴る。すぐケンカ する。 　二人でデートしていたとき、偶然、交通事故の現場に出くわした。 　道路に赤い血が流れていた。 「あたし、血の色って好きなんだよね」 　と言った。 　その日の晩。 　ケンちゃんの部屋に行く途中の道で、彼は突然しゃがみこんだ。そして、頭 をがんがんアスファルトにぶつけはじめた。 　気が狂ったのかな、と私は思った。 「NAO、血の色が好きなんだろ？」 　顔をあげたケンちゃんの額からは、何筋かの血が垂れていた。 「きれいかも」 　私が言うと、ケンちゃんはニカッと笑った。 「もっと出すか？」 「うん、もうちょっと出して」 　ケンちゃんは、部位を変えて、またガンガンぶつけはじめた。 　今、ケンちゃんは何してるんだろうか。今も新宿にいるのかな。 「サラダ食え」って、誰かに言ってるのかな。 　アホだけど、やさしい男だった。
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