９月２２日
	キューリが目に染みる
	寒いくらいの天気。今も長袖でキーボードを叩いている。 　天気がじめっとしているせいなのか、どうも肩の調子がわるい。右肩が重く て、チリチリ熱いような、引きつるような痛みがある。 　田舎の友達の太一からキューリが二箱送られてきたので、雅代ちゃんの家に 一箱分おすそわけに行く。 　ユウヤに肩をもんでもらう。十分で百円の駄賃。 　右手と左手で交互に叩くという動作がユウヤはできなくて、右と左で一緒に ドンドコやられる。 「右手、左手、順番にやって」 　何度言っても、一緒にドンドコ（笑）。 　子どもといってもバカにできない力だ。かなり気持ちいい。一時的にラクに なる。 　ユウヤは、今、お金に非常に興味をもちはじめていて、四六時中、肌身離さ ず財布を持ち歩いているらしい。 　ゴーゴーファイブの絵の財布には、覗いてみると、千円札が二枚、それと硬 貨がじゃらじゃらいっぱい入っている。 「わー、ユウ、お金もちー」 　私が言うと、 「お金もち？　お金もち？　お金もち？」 　うれしそうに、何回も繰り返して言う。 「あれ、ユウ、あそこ、なんだろ？」 　ユウヤの後ろを指さして、その隙に、私は悪戯で財布を隠した。 「あっ、ユウの財布、おねえちゃん、食べちゃった！　ユウの財布、無くなっ ちゃったよ、ごめんねー」 　五秒もたたないうちに、うわーんとユウは大泣き。おもしろい（笑）。 「雅代ちゃん、このキューリ、幾らで出荷してると思う？」 「うーん。四、五十本はあるよなあ。そうだなあ。千円くれえかなあ。生産者 価格ってやつだよな？　けっこう安いんじゃねえの？」 「ぶっぶー。もっと全然安い」 「えー、なに、五百円とか？」 「百五十円」 「うそだろー！！」 　いや、本当にウソであってほしいと思う。 　農業のことはよくわからん。今、キューリが豊作なのかは知らん。 　けど、いくらなんでも百五十円って、そりゃねえだろ。それは違うだろ。 　出荷のための箱が一つ、七十円だと太一は言っていた。儲けはほとんどゼロ ってことだ。 　真夏なんかはビニールハウスの中が蒸し風呂と化すため、朝の四時とか五時 に起きてキューリを切るそうだ。そういう仕事だ。 「NAO、俺な、涙が出たよ、百五十円って値段を出荷場で見たとき。農家、バ カにしてんのか？　いっそタダって価格のほうがまだいやらしくないぞって思 って泣けてきたよ。このキューリ、等級はＣ級だけど、味はＡ級と変わらねえ から。宅急便代のほうがたけえんだから、笑っちゃうよな」 　箱に一緒に入っていた手紙に書いてあった。 　雅代ちゃんちで、夕飯をごちそうになった。 　キューリとワカメの酢の物をつくってくれた。 　キューリの緑が目に染みた。
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