１０月１日
	バカオヤジ！
	千佳ちゃんから国際電話。 　茨城には千佳ちゃんの両親が住んでいて、ひどく心配している。 「本当にだいじょうぶなの？　茨城を出たほうがいいんじゃない？　って言っ たんだけど、『そこまでする必要はないと思う、だいじょうぶだよ』って。ね え、NAOちゃん、すごい心配だよ。本当にだいじょうぶかなあ……」 　東海村の原発事故はわけがわからない。 　原子力の知識なんか私はゼロだが、なんだろう、とても不可解だ。情報が少 なすぎるんではないか？ 　ＮＨＫは二十四時間報道体制になるのかと思いきやそんな気配もないし、新 聞、テレビも、半径十キロの人はヤバイけど、それ以外はだいじょうぶみたい な雰囲気で、まるで危機感は感じられない。 　十キロって、その判断基準はなんなんだよ。十一キロの人は安全なんか？ 　まったくもって、わけがわからない。 　思い切って、千佳ちゃんの実家に電話してみる。 　茨城を脱出したほうがよくはないか、もしよかったら緊急避難場所に私のマ ンションを使ってほしい、いつまでいてくださってもかまいませんので、とい うことを言いたかった。 「あの、藤森ですが」 　私の第一声を聞いた瞬間、千佳ちゃんの父親は、「何の用だ！　おまえとは 話さん！」と怒鳴り、ガチャッと電話を切った。 　クソッたれ！　バカオヤジ！ 　やっぱり、私とは話をするのもイヤなんだな……。 　娘と別れてほしい、娘にはふつうの男と結婚して、ふつうに幸せになってほ しい。千佳ちゃんの父親は私に頭を下げた。けど、そんな願い事、きけるわけ がなかった。 　どうか取り越し苦労で終わりますように。
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