１１月２３日（火）
	朝のような夕方のような
	起きて時計を見る。五時だった。 　夕方になりはじめの時と朝方って空の色が似てる。一瞬、ん？　今は朝？ もしや丸一日眠ってたか？　と起きかけのぼんやりした頭で考える。 　テレビをつける。あー、これは朝の番組じゃない。ということで、今は夕方 なんだと確認する。 　昨晩ベッドに入ったのが明け方だったから、半日眠りこけてたことになる。 　電話の音にもまるで気がつかなかった。仕事場からの三度の「今日は出勤な んじゃないですかー？」コールも聞こえなかった。 　ぐっすり眠った。えらく深い睡眠だった。 　なんだか頭が爽快。心身ともに軽くなった気がする。いやホント体重も減っ てるかもしれない（笑）。二キロくらい。 　風邪もどこかへ消えたっぽい。すこぶる気分がいい。 　そうなんだよな、深い眠りって重要なのだ。 　最近、ワシはぐっすり眠ってなかったのだ。 　眠りが浅くて、しかもその浅い眠りをちょこちょこ頻繁にとるものだから、 頭がまったくシャキッとしなくて、いつもうつらうつらしているような状態だ った。だから体も疲れてしまったんだろう。 　いっつも爆睡ぶっこいてる人間だしなぁワシ。体のリズムみたいなものが壊 れちゃってたんだろな。 　夕方、起きて、それからご飯も食べずに、またワシはすぐに寝た。 　快適に目が覚めたのに、今日はいくらでもまだ眠れそうだった。案の定、眠 れた。日付が変わるまで一度も起きずに眠れた。 　今日は一日中寝ていた。それだけの日だった。 　こういう日って、時々、必要なんだろう。 　今、夜中の三時にこの日記を書いている。すごく腹が減っている。あんなに 凝ってて凝ってて仕方なかった肩凝り（トクホン張りまくりだった）も、ウソ のように消えている。これには驚いた。とてもいい気分だ。 　うちに来たころの奈々ちゃんは、精神的にかなり不安定だった。 　喘息持ちの弟の毎晩の咳で眠れない夜をおくってた奈々ちゃんの神経はくた くたにすり減っていて、もう咳が聞こえることのないワシの部屋でも、なんと いうか、びくびくした怯えた眠り方をしていた。 　寝ていても、顔が苦しそうなのだ。 　今の奈々ちゃんの寝顔とあのころの寝顔は別人のようだと思う。 「いっそ掃除機、捨てようか？　埃とゴミで満杯の部屋で暮らしてもかまわ ないよ。奈々ちゃんのためならそんなの全然平気だから」 　あるとき、掃除機を指さして、私は奈々ちゃんに言った。 　咳プラス、掃除機の鬼と化した母親も奈々ちゃんの不眠の原因だった。 　奈々ちゃんがうちに来てから、掃除機をかけるなら奈々ちゃんがいないとき にこっそり私はかけていた。完璧にかけないで、ところどころ埃を残すのがミ ソだった（笑）。 　奈々ちゃんがいつにもまして眠れない夜、奈々ちゃんを安心させるために、 ワシは言ったのだ。 「捨てようかって……もう直ちゃんってばかっこいー。くー。もうかっこいー こと言うんだから直ちゃんはよー。惚れたよー。直ちゃん、今、自分でもキマ ッた！　って思っただろー。なー。なーなー」 　最初はワシの肘を「なーなー、なーなー」とふざけて何度もつっついていた 奈々ちゃんの声が、最後にはグスンと鼻声になった。 　そういうとこがかわええのぅ。 　いや本当に掃除機なんか、んなもん捨てたってかまわないんだよワシは。 　ノイローゼになるほど奈々ちゃんを何年も苦しめた掃除機なんか、「このフ ァッキン掃除機め！」って、いつでも捨ててやる。 　私の大切な人たちが、いつもぐっすり眠れたらいい。 　今日は本当にそう思った一日だった。
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