11月15日(月)
  白い犬を連れた放火魔
 

   昨日は、控え室にいたワシに、奈々ちゃんが何やら焦った声で電話を入れて
きた。
「直ちゃん、ごめん! あのさ、直ちゃんの大好きな『特命リサーチ200X!』
録画するの忘れちゃったよー! どうしよ、ごめんなー」
 いやいや、録画を忘れてしまったことはいいんだが、それより、「特命リサ
ーチ200X!」をそんなに大好きで大好きでたまらない人だと認識されているこ
とが恥ずかしくてたまらんよワシは。
 そりゃ毎週欠かさず見てるけど(笑)、そんな焦った声で電話してこなくて
もいいって。あー、恥ずかしかった。

 東京保谷市で連続放火事件。ニュースを見ていてワシは釘付けになってしも
うた。犯人は白い犬を連れた放火魔! 目撃者たちの話をつなぎ合わせると、
犯人とおぼしき不審者は白い犬を連れて現場周辺を歩いていたということだ。

 今日は仕事しながら、この”白い犬を連れた放火魔”というフレーズが一日
中、頭の中を舞っていた。すげえ惹きつけられる。ドキドキする。
 夜道で白い犬を連れた放火魔と会ってみたい、ニュースを見ながら、めらめ
ら激しく夢想する。
 真っ白い犬と老人(推定年齢は六十才前後と言っていた)。妙にざわざわと
かき立てられるものがある。


 千佳ちゃんとあんなことになってしまって、どうして私はふだんと変わりな
く生活できているんだろうか。わからない。
 奈々ちゃんも純ちゃんも不思議がっている。二人とも私の日記を読んではじ
めて事態を知った。ワシは本当に自分のことを話さない。
「信じられない。いつもとまったく変わらないから」
 二人とも同じことを言った。

 私にはいつか天罰が下る。私は千佳にひどいことをした。
 でも、ずっとまえから、たぶん出会ったときから私は千佳にひどいことをし
てきたのだ。






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