３月２８日（火）
	心中ごっこ
	純ちゃんと別れた。ダンナさんとうまくいってないときの隙間にワシがすっ ぽりたまたま入り込めただけで、やっぱり本気で女を好きにはなれなかったの かなあと情けなく責任転嫁したくなる。 　だんだん電話はかかってこなくなるし、デートの約束はしてもらえないし、 「部屋に来るときは電話してから来てね」って怪しいことは言うし、おかしい なあとは思っていた。 　その男ともワシとも両方付き合えばいいのにさ。ダメなのかぁ。男が「その 変な女とは別れろ」って言うんじゃしょうがないか。 　純ちゃんに恋人ができたなら、その男とどんなセックスしてるのか見たいっ てワシは思った。純ちゃんがどんなエッチな声出しながらチンポ突っ込まれて るのか見たいよ。ワシと純ちゃんとその男で３Ｐしようって言ったから、その 男は怒ったの？　３Ｐがダメなら、純ちゃんとのセックスをビデオに撮って見 せてほしいって言ったから、その男は怒ったの？ 「直ちゃんがしたいなら、わたしはいいんだけど、彼が絶対ダメだって言うん だよ。ごめんね」 　クソッタレ、多数決は二対一じゃないか！　一は二の言うことききやがれ！ と叫んでも負け犬の遠吠えだ。 「直ちゃんのことを嫌いになったわけじゃないんだよ。ただ、わたしが彼のこ とをもっと好きになっちゃっただけなんだ。ごめんね。彼はわたしが他の人に 抱かれるのは絶対にイヤなんだって。ごめんね……」 　謝らないでよ。きっと彼の方が正常なんだよ。 「直ちゃんとはじめて朝まで過ごしたとき、翌朝の直ちゃんはやけに照れて、 照れ隠しに『純ちゃーん』ってわたしの足にしがみついて、わたしが部屋のど こに移動するのにも離れなくてズルズル蛇みたいになってたよね」 　そんなこともあったなあ。ワシは純ちゃんの足にしがみついて、梅図かずお の「蛇女」みたいにズルズルと床を移動した。 「あのときは足が重くてさ」と言う純ちゃんの声が震えた。 「私がフラれるのに、なんで純ちゃんが泣くの？」 「そうだね、ごめんね」 　純ちゃんは謝ってばかりいる。 「じゃ、最後にさ、あの質問に答えてよ」と私は言った。 「あの質問って？」 「純ちゃん、七って言ったじゃない」 「ああ、あれか」と純ちゃんは少し笑った。 　自分のことを十段階評価でどれくらい可愛いと思う？　と以前、私は訊いた のだ。私はこの質問が大好きで、自分の彼女にはみんな訊いてきた。 「正直に答えないと怒るよ」と私は言った。 　純ちゃんが「うーん、七、かな」と答えたので、「純ちゃんのウソツキ！」 と私は怒った。「七のわけないじゃん！　純ちゃんが！」 　誰がどう見たって七のわけがないんだから。 「今度は正直にね。いくつ？」 「は、八、かな？」と純ちゃんは言った。 「九が正解だと思うけど、まあ、よしとするか」と私は言った。 「もう」と純ちゃんはまた少し笑った。 　そんなふうに、私たちは別れた。 　シャイナラ、純ちゃん。 　私の方からピーター・アーツを呼び出した。もちろん、いつものようにｉモ ード。最近の私とヤツは首を絞めることに凝っている。 　私がイキそうなときにヤツが私の首を絞める。ああもうこれ以上のエクスタ シーはないと私は感じる。今まで感じたどんなレベルの快感より凄まじい。こ の私が恐ろしくなる。 　私もヤツの首を絞める。私と違って、ヤツにとってそれは快感の邪魔になる らしい。だからセックスが終わってから私はヤツの首を絞める。かなり力を入 れても、ヤツは私の両手を振り払おうとしない。 　今日は、私が首を絞められたとき、同時に絞め返してみた。ヤツは首を絞め られながら笑っていた。 　私は白い闇にまっさかさまに落ちた。黒じゃなかった。白だった。白い深い 穴に落ちていく。チンポとマンコは繋がったまま、私たちはどこか別の世界に 行った。ただれたまま。
	←Back　　　 Index　　　Next→