3月8日(水)
  高円寺純情人間風車
 

   先週末、高円寺に行ってきた。
 高円寺といえば、ねじめ正一。じゃなくて、やっぱりビル・ロビンソンだろ
う。高円寺にビル・ロビンソンが住んでるって、なんかものすごい話だよな。
 ウソみたいなステキな話だ。
 私が高円寺に住んでたら、絶対にビル・ロビンソンのレスリングジムに通う
と思う。そのへん、ワシはミーハーだ。浅草に住んでたらアニマル浜口ジム、
越谷だったらバトラーツのジム、横浜だったら田村潔のU−FAILに通う。
 でも、パンクラスのジムは通わない(笑)。
「人間は平等だ。でもプロレスラーだけは特別えらい」
 と言ったのは香山リカだ。彼女も熱烈なプロレスファンであるらしい。
 そのとーり! ワシも激しく頷いた。

 高円寺で、不肖の我が弟、秋一の結婚記念パーティーがあったのだ。
 秋一の親友がそこで料理屋をやっているんだそうだ。内輪だけの小さな小さ
なパーティーだった。
 どんなに小さなパーティーでもワシは苦手だし、当初は行くつもりもなかっ
たのだが、場所が高円寺と聞いて、ああそれなら行ってもいいと思った。
 ビル・ロビンソンのジムを見るついでに行ってもいいかなと。

「おまえなー、いつか保険金たんまりかけられて殺されるよ」
 私は笑って、秋一に言った。

 新婦はホステス。秋一は彼女に惚れて、白杖をコンコンついて店に通ってい
た。秋一のことなど鼻にもひっかけなかった彼女が、秋一のある一言を聞いた
途端に態度が豹変した。
 うちの実家の土地が公共事業に引っかかって、我が家には億の金が入り込ん
だ。母は「何度も何度も金をやることはしないよ。全員一回こっきりだからそ
のつもりで」と、子供たちにいくらかの金を分け与えた。
 秋一だけが「俺はすぐに欲しい」と言い、姉と妹はもうちょっと先になった
らもらうと言い、ちなみに私は要らないと言った。

「店を持たしてやる」
 その一言を秋一が言った夜、彼女は「うちに遊びに来ない?」と秋一を誘っ
た。こんなわかりやすい女もいねえよ(笑)。ある意味、ワシは感心した。
「素人の女の人とセックスしたのははじめてだよ……」
 秋一は嬉しそうに夢見心地に私に言う。本当にアホじゃのぅ。

「念願の店を持てたら、彼女にとってあんたなんかジャマなだけと違うん? 
きっと将来は保険金かけられて殺されるでー」
 姉として祝福の言葉を伝えると、
「殺されたっていいんだー!」
 秋一は上機嫌に叫んだ。
「彼女が金目当てで俺と結婚してくれるってもちろんわかってるよ。目の見え
ねえ俺を本気で相手にするはずがねえってのもわかってるさ。もしかしたら、
将来、彼女は林真須美になるかもしれねえ。でも、いいんだよ。最初は金でも
さ、一緒に暮らしてるうちに、いつか愛が生まれるかもしれねえじゃんか。そ
れは誰にもわかんねえだろ? 俺は彼女が好きなんだ。だから殺されたってい
いんだ」 
 秋一はワインをぐいっと一飲みし、
「それに、俺だって人並みに結婚してえんだよ……」
 赤く染まった顔で恥じらうようにボソッと言った。

 保険金殺人される秋一を想像してみる。ワシはクスクス笑ってしまった。
 障害者のくせに、そんくらいハデに生きられりゃたいしたもんだわ。ねえち
ゃん、褒めてやるわ。うん、立派に殺されてこい新郎!
 すっかり殺されると決めつけてるワシだった。
 秋一が本当に殺されて、お化けになって出てきたら、
「だから、ねえちゃん、言っただろ!」と、そう言って笑ってやろう。








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