３月３日（金）
	鬼畜ドライブ
	今、ワシのマンションの隣で工事をしている。 　毎朝、七時にはガッシャンガッシャンうるさい音がする。いや、工事そのも のの音はいいのだ。ワシの心臓に悪いのは別の音である。たぶん少し知恵遅れ の青年なんだと思うが、彼の悲鳴がいたくワシの心臓に悪い。 「こわいよー、こわいよー」 　彼は毎朝、そう叫ぶのだ。鳶が高いとこ恐がってどうすんだー（笑）。 　どっかの偉い人から、「すまないが息子を使ってやってもらえんかね」なん て感じで頼まれたのかなぁ。 　事情はまったくわからんが、頑張ってくれたまえよ青年。早く高いとこに慣 れて、ワシの安眠を返してくれな。 　針マニアのＭ男の鬼頭にプシュッと刺したら、シュワッと血が吹き出た。 　見事に出た。この赤いミニ噴水が私は大好き。いつ見ても、きれいだなあと 思う。血に弱いとＳＭクラブでは働けないな。よかった、血に弱くなくて、と いうより強くて。私は本当に血の色が好きなんだ。 　血がダメなＭ男も多いが、血好きなＭ男はうっとりと自分の血を見る。 「癒し」が世の中では今大流行らしいが、これも一種の癒しなんだろうか。 「自分の体から出る血を見ると、ああ生きてるって思うんです。落ちつくんで すよね」と、Ｍ男はチンポを赤く染めて言った。 　この感覚わかるような気もする。病院で採血したとき、注射器にちゅーっと 自分の血が入っていくのを見て、ああなんかいいなあって私も思ったもんな。 　仕事帰りにピーター・アーツと会う。 「これから飲み会あるんだけど来ない？　男女あわせて十人くらいなんだけど さあ。行こうよぅ」 　ナンパ通りとして有名な場所で、ヤツが女の子二人組に声をかける。 　なんだなんだ、このちょっと陽気っぽい喋り方は。ヤツがダルそうに喋らな いなんて、なんか恐いぞ。 　女の子たちは助手席にいる私を見て、ヤツの話をすんなり信じてしまうよう だ。キャッキャッ言いながら、あっけなく車に乗り込んでくる。 「どんな関係の集まりなんですかぁ？」 　二人組の片割れが私に聞いてくる。 　飲み会なんて私はまったく聞いていない。私が答えないでいると、 「んー、ま、友達関係がいろいろ」 　ヤツが適当に返事する。 　また私に何か聞かれてもこまるので寝たふりをすることにした。一体なんの つもりなんだヤツは。 　二人組は何が可笑しいのかずっとキャーキャー騒いでいる。二人だけがわか る会話を楽しんでいる。私は窓の外に眼をやる。車は繁華街を外れたほうに走 っているようだ。 　ピーター・アーツが車を止めた。 「降りろ、ブス」 　二人組に向かってヤツが言う。 　口はニヤニヤ笑っているが眼は笑っていない。二人組が「どういうつもりな んだよ、オメー」と食ってかかる。 「降りろって言ってんだよ、ブスども」 　ピーター・アーツは顎をしゃくって、出ろと指図する。 「ここどこだよ。こっからどうやって帰んだよ！」と、がなる二人組に、「知 るか」ヤツは淡々と言う。 　二人組は「信じらんねー！」と怒鳴り、叩きつけるようにドアを閉めて降り た。どっちかがドアを派手に蹴飛ばす音が聞こえた。 　ヤツはとっとと車を発進させる。ひっでえなあ。 　振り返ると、二人組が小さな豆粒のようになっていく。 　どうすんだろうなあ、あの二人、と思った瞬間、腹の底から笑いがこみあげ てきた。沸騰した水にポコポコ浮かび上がる気泡のように笑いがこみあげてき て、愉快でどうにもたまらなくなった。横っ腹が疼くような可笑しさだった。 　一時間後、車はまたナンパ通りに戻った。 　さっきと同じように女の子を引っかけて乗せた。また捨てた。 　おもしれえ、人を捨てんのって。こんな愉快なドライブってちょっとないよ なあ。今夜は楽しかったなあ。なんだろうな、いえーいって気分（笑）。 「NAOさんの本、本屋で探してるんですが見つかりません。クロネコで注文す ればすぐ手に入ると思うのですが、私は欲しい本は本屋で見つける主義なので NAOさんの本も本屋で見つけてみたいと思います」 　というメールをたまにもらう。 　ありがたいのだが、たのむ、折れてくれ（笑）。クロネコしてくれ。 　本、増刷になってないので、今現在、私の本が置いてある本屋のほうが少な いと思うんですよ。少ないっていうか、もう本屋にほとんど無いと思うんです よ。あっても、立ち読みされまくってボロボロとか。 　本屋でももちろん注文できますが取り寄せに時間がかかるので、クロネコし てもらったほうが断然早いです。よろしく。クロネコにはホームページのプロ フィール欄から行けますから。
	←Back　　　 Index　　　Next→