１月３０日（日）
	前田日明のマッキントッシュ
	あの前田日明からメールをもらえたなんて信じられない。 　私は前田選手の大ファンで、日記でも何度か触れたことがある。どこでどう 伝わったのか、なんと前田選手がうちのサイトを見に来てくれたらしいのだ。 　嬉しいなんてものじゃない。神様、もう死んでもいいです（笑）。 　でも、最初、私はそのメールを前田選手のものだとは思わなかった。 　私にとって彼は雲の上のスターである。そんなことがあるわけない、と到底 信じる気にはならなかった。 　届いたメールのアドレスは確かに＠rings.co.jp からだけど、なんつーか、 誰かの悪質なイタズラだと思ったのだ。パソコンでそれくらい簡単にできちゃ うだろうと思った。 　それに私に疑惑を抱かせたのが、メールのタイトルだった。いきなり「夜桜 銀次　推参！」だもん（笑）。 　おまけに、メールアドレス左横の名前は確かに（maeda akira ）になってい るけど、本文では「おっぱい星王位継承権第一位　夜桜銀次」だしね（笑）。 　これは私を前田ファンと知っての愚弄ではないか？　純粋な乙女心をからか う誰かの悪質なイタズラだと確信した私は、前田選手が所属する団体リングス 広報部に問い合わせのメールを書いた。 「ｘｘｘｘｘ＠rings.co.jp というメールアドレスは前田選手が使用している ものでしょうか？　私が自分のホームページの日記で前田選手のファンだと書 いているので、それを見た誰かの悪質なイタズラだとは思うのですが。お忙し いところたいへん申し訳ありませんが、お答えいただければ幸いです」 　果して答えは……。 　リングス広報部から届いたメールを開いた私は卒倒しそうになった。 　なんと、夜桜銀次の名前で返事が来ているではないかー！ 　ひゃーーーーーーっ。ほ、ほほほほほほほ、本物の前田日明だよーーーっ。 　ごめん、アキラ、疑り深くて。 　神様、私はもう死んでもいいです。いや、マジにそう思った。 　体が震えるくらい、私は感激した。 　幼いときから、私は前田のファンだった。 　前田はめちゃめちゃカッコよかった。 　十二種類のスープレックスを持つ男として、ヨーロッパ修行から新日本に凱 旋帰国した前田に私はいっぺんに惚れてしまった。 　失踪した私の父もプロレス好きな人で、父に連れられて旧ＵＷＦの旗揚げ戦 を一緒に見にいった。 「こいつは大物になる」 　新日脱退後、旧Ｕの旗揚げ戦で、ダッチ・マンテルと対戦した前田を見て、 父が興奮して言ったのを覚えている。前田の試合なのに、試合中、客席から猪 木コールが発生して、子どもだった私も、あのときは憤慨したものだ。 　新日本にＵターンしたときも、新ＵＷＦも、その後のリングスも、私はずっ とずっと前田を応援してきた。前田が大好きだった。 　あのころ、プロレスでいえば、順風満帆だと思われていた新ＵＷＦが崩壊し たころ、私はいつも一人だった。学校に行ったはいいが、授業なんか出る気も しない。不良でもなく、イジメにあってたとかでもないけれど、みんなの輪か らは外れていた。 　前田も一人だった。団体を引っ張っていた前田のもとから、所属選手全員が 去っていった。高田は団体を起こし、多くの選手が高田のところに集結した。 船木も鈴木も藤原も去っていった。 　学校のそばに市営のだだっ広いグラウンドがあった。グラウンドを見渡せる 水色のベンチに私はごろんと横になって、ぼんやり空を見ている毎日だった。 　今でも忘れない。ごろんと横になって見ていた「週刊プロレス」のあるペー ジに私の目は吸いよせられた。 　私が目をとめたページは、前田とジョニー大倉のトークショーだった。 　新ＵＷＦ崩壊直後の前田は、聴衆の面前にもかかわらず、ポケットウィスキ ーをがぶ飲みし、呂律が回らなくなるくらい泥酔していたと記事には書いてあ った。そして、そのときの見出しにはこう書かれていた。 　　　　　　　　　　　「ひとりぼっちのアキラ」　　　　　　　　　　　　 　その日、ベンチに寝っころんだまま、私はその見出しの言葉を何時間も飽き ずに眺めつづけた。 　私が今も昔も前田に惹かれる理由は、たぶんこれなのだと思う。 　前田は孤独の人だ。前田ほど強烈にファンから愛された選手は、猪木を抜か せばいないのではないか？ 　二人に共通するものは何か。それが「孤独」だ。 　前田も猪木も、クーデターや離反で回りから仲間が去り、追い落とされたり している。前田は気がつけばいつも一人だ。 　若いときは時間は無尽蔵にある。 　呆れるほど時間ばかりある。自分で働かないですんでるうちは、口先だけで いっぱしのことを言っていればいい。だらだらと過ごして、だらだらとだべっ て、いくらでも長電話して、他人に自分の時間をあげることができる。 　だが、自分で働き食べていくようになると、おのずと時間は足りなくなる。 　今度は呆れるほど足りなくなる。 　それが大人になるということだ。大人になったら、今度は自分の時間を無闇 やたらに他人にあげることはできない。 　仕事の時間、仕事が終わってホッと自分一人で過ごしたい時間……。 　時間が貴重だと感じることが、大人になるということかもしれない。 　前田日明が私にメールを書いてくれた。 　私のためだけに時間を使ってくれた。ただの時間ではない。そんじょそこら の時間ではない。あの前田日明の時間を私はもらったのだ。 　それはほんの三分ていどだろう。でも、ただの三分ではない。そんじょそこ らの三分ではない。あの前田日明の持っている時間の中の三分なのだ！ 　それって、ほとんど奇跡だ！ 　前田日明のマッキントッシュから私にメールが届いた。 　このことは、生涯、私の自慢となるだろう。 　今晩は前田のビデオを見たい気分だ。 　何を見よう。藤波のブルーのタオルが血染めになったあの流血の名勝負、い まだ色あせないニールセンとの異種格闘技戦、ヤバすぎてテレビ放映されなか ったアンドレとの試合（ボケボケの裏ビデオ）、「リングの魂」で巨乳美女の おっぱいを日明がボールペンでツンツンとつついて、めちゃめちゃ鼻の下のば して満開の笑顔のシーン（笑）……。 　前田にメンチ切られて、後ずさりしないでいられる人間ってまずいないと思 う。こっえーからねえ、前田のゴンタ顔は。 　でも、前田の笑顔はホントかわええのだ。こっちまで、つられてニコニコし てしまう。ぎりぎりの勝負の世界で生きてる人間だからこそ、勝負から離れた 一瞬、あんな優しい笑顔ができるんじゃないかなぁ。 　寄せて上げるブラを買ってしまった。 　寄せて上げるブラとかけて、備えあれば憂い無し、と解く。 　さて、その心は？　乙女心と解くのだー（笑）。
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