１月１８日（火）
	時を越える言葉
	純ちゃんに腕枕をしていた。 「直ちゃん、前にお父さんのことを日記に書いたよね。お父さんが失踪する直 前に直ちゃんに言ったこと、すごく印象に残ってるんだ。『直はいい子だね。 直は本当にいい子だよ』って。直ちゃんも、お父さんのあの言葉を時々言って るって自分で気づいてる？」 　ワシの腕の中で、純ちゃんが言う。 　私は首をかしげる。 「直ちゃん、さっきも言ったよ」 　純ちゃんはくすっと笑う。 「純ちゃんはいい子だよ。本当にいい子だよ。だから、だいじょうぶだよ、う ん、だいじょうぶだいじょうぶって言ってくれた。私がすごく落ち込んで元気 がないとき、直ちゃんはいつだってそう言って抱きしめてくれる。わたしね、 可笑しくなるの。わたしのほうが直ちゃんより年上でしょ？　ううん、それ以 前に、わたし、いい大人だよ。なのに、『いい子だね、いい子だね』って子ど もに言うみたいに直ちゃん、言うから。だから可笑しくなって、涙が出そうに なって、なんだか元気になっちゃうの」 　そう言われればそうだ。 「いい子だね」とワシは言うなあ。大人に「いい子だね」って、そりゃ、純ち ゃんも可笑しくなるわな。 　でも、それを父と結びつけて考えたことはなかったなぁ。うーん、結びつい てんのかなぁ。わからん。 　なんとかなるって。 　ワシはいつだって話を聞くよ。純ちゃんのとこに飛んで行く。
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