２月８日（火）
	ウオンテッド
	雅代ちゃんと一緒にＳＭコスチュームを見に行った。 　バイブレーターなんかは通販でも十分なのだが、服はやっぱり直接見たほう がいい。雅代ちゃんはメイドドレスなどを買い込む。ワシはエナメルのロング ブーツなどを物色。当然ブーツはピンヒールだ。 「あ、お父さんだ」 　ＳＭショップの帰り道、何気なく雅代ちゃんが言った。 「え？　どこどこ？」 　あたりを見回すが、それらしき人はいない。 「あそこだってば」 　きょろきょろしてるワシに、雅代ちゃんは指をさして笑って言う。 「張られたときは新品でいいんだけど、そのうち、クソガキが傘の先っちょで キキキーッてつついたりして破れちゃうんだよ」 　雅代ちゃんが指さす方向には、やけに写真うつりの悪い男がいた。いかにも 殺人でもやらかしそうな風貌である。 「ああ、あれか、お父さんって。へえ。もうちょっといい写真使えばいいのに なあ」 　私は言う。 「だろだろ？」 　雅代ちゃんは言う。 　それは「この顔に見覚えあったら１１０番」の全国指名手配の男だった。 　雅代ちゃんのお父さんは、端っこが破れてペラペラと風に吹かれていた。 　ラーメン屋で晩飯。 「あのさ、直」 「ん？」 　ハフハフ言いながら、熱いラーメンをワシはすすっている。 「ふつうは、聞いたら悪いかな……って思って突っ込んで聞いてこないと思う んだけど、直の場合、そういう遠慮じゃなくてさ、もしや、さっきのこと頭か らすっかり消えてて、完全にラーメンに没頭してねえ？」 「なんだよ、聞いてほしいんかよ」 「少しは気にしろよ」 　雅代ちゃんが呆れたようにワシを見る。 　髪の毛を気にしながらラーメン食べる女は死ぬべきだとワシは思う。ワシも 雅代ちゃんも、共にゴムで髪を束ねた戦闘スタイルでラーメンには挑む。 　結局、雅代ちゃんは今もＳＭクラブを辞めることなく働いている。アナルフ ァックの達人と既に化し、新人の講習係をするまでになっている。 　雅代ちゃんのダンナは、家を出たまま、まだ帰ってこない。 　昨日、巨根に当たってアナルを負傷した雅代ちゃんは食べてる途中で、時々 尻を浮かす。 「うん、確かにもうちょっといい写真使ってほしいよなあ」 　ラーメンをすすりながら雅代ちゃんが言う。 　指名手配の写真うつりを気にするのは、これも一種の父親を思う子ども心な んだろうかのぅ、と思いながらワシもラーメンをすする。
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