１２月２５日（土）
	きっと思い出す
	夕方には家に戻ってくる。 　指名予約が入っているので、あたふたと仕事に行く。 　クリスマスらしく、キャンドルなどを灯す。もちろん、キャンドルはＭ男の ケツの穴に。 「クリスマスソング、歌ってごらん」 　あー、なんだか楽しい（笑）。ワシもクリスマス気分を満喫する。 「な、何の歌がいいでしょうか」 「そうねえ、清しこの夜、がいいわ」 　部屋の照明は消す。 　ぼうっとした聖なる灯にライトアップされて、Ｍ男は厳かに歌いはじめる。 　厳かに……。厳かなわけ……ねえ。だって、ケツだもの、キャンドルが立っ てる場所が。 　Ｍ男のヤツ、なんだか感動しちゃったみたいで、歌いながら涙ぐんでんのな ぁ。でもねえ、絵にならんわ。だってケツだもの、キャンドルが立ってる、と いうか刺さってる場所が。 「き〜よ〜し〜♪　ぐすん♪　こ〜のよ〜る〜♪　ぐすん♪」 　そんなこっ恥ずかしいカッコで泣くなって（笑）。 「直女王様とのクリスマスに、私のこの汚いお尻が燭台になれたと思うと幸せ で……。もし、私が将来年をとってボケて何もわからなくなって、ＳＭが好き だったということすらも忘れて、何もかも忘れてしまう日がくるとしても、今 日のこのクリスマスのことは、何かの拍子にふっと思い出す気がするんです」 　Ｍ男は、人間キャンドルのままで言った。 　おまえがボケたとき、誰とクリスマスを過ごすのかはわからないけど、孫の 前で、あるいは老人ホームの仲間の老人の前で、パンツを脱いでケツを丸出し にするかもしれんな。ケーキに立ってるミニ蝋燭をひょいとつまんで、ケツの 穴に突き刺して、まわりをびっくりさせるかもな。 　それって、なんかいいじゃん。アッハッハ。 　帰りにコンビニで、くたびれた風の中年サラリーマンを見かけた。 　ワシは彼の買い物を目で追いかける。缶ビールと、イカの燻製と、それから 弁当コーナーで彼はおにぎりを選ぶ。あれこれ悩み、結局、一個一個包んであ る海苔がぱりぱりのおにぎりではなく、海苔が湿ってるタイプのおにぎりをカ ゴに入れる。クリスマスの赤いお菓子ブーツが脇に置かれてるレジで、男はし わしわの千円札を出す。お札までくたびれとったわ。 「あっためてください」 　男は言った。 　思わず、ワシは吹き出しそうになる。なんかギャグに聞こえてしまった。 　それ、おにぎりじゃなくて、おまえ自身のことじゃないのか？　ええ？　ど うなんだ？　いや、余計なお世話か（笑）。 　そのおもろわびしいギャグに胸がきゅっとしてしもうた。 　人それぞれのクリスマスだわな。
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