１２月２４日（金）
	漠々ナイトクルージング
	クリスマスイブということで、奈々ちゃんとナイトクルージングなんぞに行 ってみた。「すげーロマンチックだよきっと！」と奈々ちゃんが前々から予約 していたのだ。 　夜の海って、なんかよかったな。 　客はほとんどがカップルで、船内で食事したあとは、みんな、甲板でキスし とった。ワシはせっかくだから、ぶっちゅーよりも、海を見ていたかった。 　ワシのコートに奈々ちゃんをすっぽりくるんで、後ろから抱っこするように して、ずっと海を見ていた。 　手が冷たい。私は奈々ちゃんのセーターの下から手を入れて、おっぱいを触 わった。氷みたいなワシの手に、奈々ちゃんの体がびくっとする。すっげえあ ったかい。おっぱいの感触ってホントええなあ。やわらかくって気持ちいい。 　しばらくすると、奈々ちゃんのおっぱいとワシの手は同じ温度になった。　 「ヤ、変な気分に……なっちゃうよ」 　奈々ちゃんが、くぐもった声で言う。 「変な気分ってどんな気分？」 　あったまって自由に動く私の指が、奈々ちゃんの乳首を転がす。 「変な声出したら、まわりに聞こえちゃうよ。ふつうに話しよ。ふつうに。そ うだ、Ｙ２Ｋ、だいじょうぶかな、Ｙ２Ｋ」 　ワシは意地悪っぽく言う。 「う……っん」 「水くらいは買っておいたほうがいいかな。ね、買っとく、水？」 「う……っん」 　乳首がコリコリに硬くなっている。 「奈々ちゃんはどう思う？　Ｙ２Ｋ問題」 「わかんな……いよっ」 　必死に声を抑えているのがかわええ。 　奈々ちゃんの手も入ってきた。ワシの手をぎゅっとつかんで、動けなくさせ ようとする。セーターの中で、二人の手がもごもごと絡みつく。奈々ちゃんの 指に、今日、私がプレゼントしたばかりのシルバーの指輪があるのがわかる。 奈々ちゃんの希望で、Ｎ＆Ｎと内側に彫ってもらった。 「ねえ、水くらいはやっぱり買っとく？」 「うん……」 　ワシの手と絡みついて、指輪もあったかくなっていた。 　空気がひりひり頬に冷たい甲板で、奈々ちゃんとワシは、Ｙ２Ｋ問題につい て語りあう。 　夜の黒い海が、目の前に漠々と広がっている。 　奈々ちゃんにワシがリクエストしたプレゼントは本気でたのんだわけじゃな かった。 「奈々ちゃんが男とセックスして喘いでる声が聞きたいなー。奈々ちゃんの知 り合いの男じゃつまらないから、テレレでテキトーな男みつくろって一晩限り でヤッてきてよ。で、ＭＤウォークマンに録音してきてよ」 「直ちゃんは何が欲しい？」と聞かれたので、二割ホンキ、八割ジョーダンで 言ったことだった。 　好きな人がワシ以外の人間とセックスして、どういう声で悶えるのか。それ を聞くのがワシは好きだ（見るのも好きだけど）。 　嫉妬というものをワシはまるで感じない。 　恋人が誰とデートし、誰とセックスしてこようがまったくどうでもいい。 　どころか、そういうことをいっぱいしてほしい。そして、誰かとセックスし てきたら、どんなセックスをしてきたのか詳しく教えてほしい。どんな卑猥な セックスをしてきたのか事細かにワシに話してほしい。興味があるのは、その 一点のみだ。 　ホテルに戻って一休みする。 「直ちゃんが聞きたいもの」と、奈々ちゃんが一枚のＭＤを差し出した。 　再生する。聞き覚えのある声だ。 　奈々ちゃんがシャワーを浴びに行く。 「気持ちいいの？　すごくエッチな声出てるよ」 　男の声がはっきりと録音されている。 　粘膜がこすれあう生々しい音も入っている。 「イヤッ。アーッ」 　奈々ちゃんの声は演技じゃない。わかる。 　幸せなセックスより、ただれたセックスの方が興奮する、それは別に珍しい ことじゃない。ワシはよく知っている。 　バスタオルを巻いて出てきた奈々ちゃんが、満足そうにニヤニヤとヘッドフ ォンを耳に当てているワシを見て、とても嫌な顔をした。その一瞬の眉をしか めたときの表情に、たまらなくゾクゾクする。ワシは外道だ。
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