１２月２０日（月）
	背中からキャラメル
	世間の人は今、とても忙しいらしい。忘年会をいくつもこなして、飲み過ぎ 食べ過ぎの日々らしい。ワシには、まーるで関係ないなあ。忘年会も無いし、 年賀状も書かないし。 　街は慌ただしいみたいだけど、いわゆる人付き合いというものを日頃しない （というか、そういうのが存在しない）ワシには関係ない慌ただしさだ。 　どこもそこも、街はクリスマスムード一色だ。街全体が浮足立って、一緒に 過ごす恋人がいない人にはイライラする季節だろう。いや、思うんだけど、い つか殺人だって起きるぞ。クリスマス殺人事件、血塗られたクリスマス、ホワ イトクリスマスならぬレッドクリスマス、とかさ。 　実際、今日、おかしな人を見かけた。 　イルミネーションツリーのところで抱き合ってるカップルたちに、 「コラー！　貴様ら、離れろー！　いちゃいちゃしてんじゃねー！　コノヤロ ー、バカヤロー！　とっとと家帰れー！」 　と、大声で怒鳴ってるイカれ男がいた。 　きっと、何年も独りモンなんだろうなあ。 　その騒動を見ていた人はいっぱいいたんだけど、私の横にいたおっさんは、 「そうだそうだ」と拍手していた。 　独りモンがこの季節に正気を保つのは、現在の日本では難しいのかもしれん な（笑）。 　ワシのお気に入りのジャケットは、右のポッケの内側の底がちょこっと破れ ている。だから、右のポッケに物を入れると、それがいつのまにか背中の側に 回っていたりする。 　私はふだん無造作にアメやガム、小銭をポケットに入れている。コンビニの レジで端数が足りなくて、背中から十円を出す、なんてことがある。 　奈々ちゃんはそれを知っているので、一緒に歩いていて、時々、ワシのポケ ットに手を入れてくる。 　デートの帰り、奈々ちゃんの手が私のポケットの底を抜けて、背中に回り、 キャラメルを取り出した。 　奈々ちゃんがキャラメルを口に放りこむ。 　ポケットの破れを、どうもワシは縫えないでいる。 　先日、奈々ちゃんは高校をやめた。 「テレレで食ってく」 　なんだか、投げやりなことを言っている。 　一体何をしたいのか、本当はどうしたいのか。彼女に問いただす資格なんて ワシにはない。そんなこと、この私だって今もってわからないのだから。 「奈々ちゃんには日の当たるまっとうな道を歩いてほしいんだよ」 　善良な小市民みたいなことを私は言ってしまった。 「まっとうって何？ 仕事にまっとうもまっとうじゃないもあるの？ 直ちゃ ん、すごく凡庸なこと言うんだね！」 　テレレで連日、電話しすぎの奈々ちゃんの声は掠れている。 　私は背中を探った。もうひとつ、何かアメはないか。でも、出てきたのはブ ルーベリーガムだった。仕方ないので、私がそれを噛む。
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