12月5日(日)
  続 さまよえる一人称
 

   NAO's Blue Film を作ったとき一番迷ったことは、ホームページのデザイン
でも、どれくらいコンテンツを作るかでもない。
 私がもっとも頭を悩ませたのは、日記の一人称をどうするかであった。

 一人称の使い分けは世間の誰しもがやっていることだ。
 私も日常では一人称をいくつか使い分けている。めちゃめちゃ恥ずかしなが
ら、恋人といるときはワシは自分を「直ちゃん」と呼んでいる。ひー、書くだ
けで恥ずかちいー。

 仕事場の控室や、空、ちょっとした知り合いといるときは、「あたし」にな
る。編集者と話すとき、よく知らない人と話すとき、きちっと硬い話をしなけ
ればならないときは、それが「私」になる。

 ウェブ上での一人称をまさか「直ちゃん」にするわけにはいかない(笑)。
 これはもちろん問題外だ。
 では、「あたし」は? 「あたし」には二つの問題がある。
 自分の思いを文章に書いていて、「あたし」じゃどうしても越えられないも
のがあるのだ。わかりにくい言い方かもしれないが、わかる人には一瞬でわか
ると思う。これが一番の理由。

 二番目の理由はまあ付録的な理由なのだが、「あたし」だと、頭の悪い男に
ナメられる可能性が大なのである。
 単純なわかりやすいナメ方はいい。いや、よくはないけど、そんなのは、あ
ー、あったまわりいな、の一言ですむ。

 このサイトをやっていて、私はけっこうメールをもらう。
 ほとんどは真面目な感想メールだけど、やっぱりバカなメールも時折舞い込
む。単純にナメたこと言ってるメール(ねーねー、こんど僕チンのことも縛っ
てー! みたいな)は即、ゴミ箱に捨てればいい。バカでも多少こちらを笑わ
せてくれればいいんだけどさ。たいがいつまんねえから、二行くらい読んでポ
イだな。

 私がウゼえなって思うのは、実はそういう単純バカメールではない。
 メールを送ってきた本人はナメてる自覚がたぶん全然ない、ふっつうの人の
メールが気分悪いのである。
「日記、おもしろいですね!」と一見まともなことを書いた後、「photo 、こ
んどは顔が載ってるのをぜひお願いします」とか書いてくるヤツ。
 インターネットで顔出して何かいいことあるかよボケナスが。
 それらは決して悪意あるメールではない。でも、ワシはこの手の、自分がナ
メてること言ってる自覚が一切ない、ふっつうのヤツに反吐が出るのだ。
 そういうボケナスに対しては、「あたし」なんていう、女の子の匂いがぷん
ぷんする一人称ではダメなのだ。もっと硬派なのでないとな。

 ふだん喋り言葉で使う「あたし」には、別にそーんな女の子女の子っぽい感
じはないのに、これがテキストになると、途端に女の子女の子っぽく感じられ
るのは実にフシギだ。

 じゃあ、「あたし」じゃない一人称は他に何があるだろうか。
 ネットで女性が使う一人称で、今、多いのが「俺」「オレ」だ。
 これはノリを出せるし、ナメられ度も著しく減ると思う。私も最初、使って
みようかと思った。けど、どうもしっくりこなかった。
 自分には合ってない気が、ていうか、使いこなせない気がしたのだ(笑)。
 暴れ馬を操って落馬したらみっともねえからな。

「おいら」「オイラ」を使ってる女性もいる。
 これは私には向いていない。
 じゃ、他には? 「あたい」はどうか?
 いや、これはさすがに使ってる人、見たことねえわ。
 スケバンみたいで、ちょっとおもしろいか? 今の時代にかえって新鮮?
 んなわけねーよ(笑)。

 つくづく思うけど、一人称の選択ってホント難しいなあ。一人称に関しては
男はそんな悩まないだろう。女の方がその選択は難しいんじゃないかって気が
する。あーでもないこーでもないと考えたあげく、結局、消去法で、もっとも
ニュートラルで無難な「私」を私は使うことにした。

 しかし、ここで、すんなり終わらなくて、またもや問題が生じる。
 また、越える、越えられない問題だ。
 うーん、越えられんのだわなあ、「私」じゃ。越える、越えられないという
言い方は非常に感覚的で、わからない人にはまったく意味不明に聞こえるだろ
うな。わからない人は無理にわかろうとしないでください。

 私の変形として「ワシ」も同時に使っているのは苦肉の策だ。
 俺も、おいらも、あたいも使いこなせないけれど、「ワシ」ならイケる気が
した。少しは越えられるかもしれない、と思ったのだ。
 さまよってんなあ、ワシの一人称は。
 何を越えてどこにワシは行きたいのか。それ以前に、いつまでこの日記を書
きつづけるのか。もしかしたら明日やめるかもしれないし、十年つづけるかも
しれない。越えられたら、やめる。


 スポニチのMさんに、連載中の「キャバクラ物語」を私のホームページ等に
転載してもかまわないかと問い合わせる。
「スポニチの宣伝にもなると思うので、ぜひ転載してください」
 と快諾してもらえる。よかった。ホームページか、私が参加してるメールマ
ガジン(文芸山脈)に載っけよう。

 余談。私がMさんを好きなのは、こういうことを言う人だから。
「元気にやってますか? 私は元気がなくなりそうになると、桜庭がホイラー
をボコボコにしているシーンを思い出して、なんとか頑張っています」
 わーかーるー(笑)。
 ホイラーが桜庭にボコボコにされた場面を見たとき、ワシは恍惚となってし
まったもんな。次はヒクソンをボコボコにしたれや、桜庭。






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