1202

	１２月２日（木）
	ただれた関係

	私の愛しのヤリ友、イノちゃんが逮捕されてしまってから新しいヤリ友を探していたがやっと見つかった。　コンピュータ関係の仕事をしていることの他は（それだって本当かどうかはわからんけどね）何もわからない得体の知れないヤリ友とはずっといい関係でセックスを続けていた。彼とイノちゃんと二人、私にはヤリ友がいた。　私に最適なヤリ友人数は二人なのだ。一人じゃ足りないし、三人以上じゃ多い。　新しいヤリ友とは空で知り合った。　マスターの高校時代の友達なんだそうだ。　年商百億円のスーパー大富豪の家の次男坊で、とにかく金回りがいい男らしい。マスターたちの行った高校は、めちゃめちゃええとこのボンが多い学校だそうで、マスターの家はビンボーなのに無理して入学して、マスターはかなり肩身が狭い思いを在学中はしたそうだ（笑）。　マスターが、「こいつ、イヤミなくらい金持ってんだぜ。で、イヤミなくらい、自分が金持ってることを隠さない奴。ほんでもって、イヤミなくらい金遣いが荒い」と、笑いながら紹介してくれた。　ビンボーだったマスターと、でも親友だったというから変なの。「ちす」　彼は、素っ気なく私に挨拶した。　顔がＫ１のピーター・アーツに似ているなあと思った。　ピーター・アーツは開口一番こう言った。「俺、金はあるけど心はないから」「確かにな」とマスターは笑う。　ピーター・アーツは口数が少なくて、何か喋るときは、かったるそうに、とても面倒くさそうな感じで喋る。　その喋り方がなんだかすごくおもしろくて、ピーター・アーツが何か喋るとき、私は彼の口許をじーっと見つめてしまう。「じろじろ見んなよ。何だよ」　かーったるそうにピーター・アーツは私に言う。　その日、ピーター・アーツは車で来ていて酒は飲まなかった。　彼はサイダーを頼んだ。　飲む前に、鼻をグラスに突っ込むようにしている。　ああ、こんな年になっても、それをする人がいるのかあと思って、私は可笑しくなった。炭酸の気泡がパチパチ跳ねるのが気持ちよくて、子どものとき、私もよくやったものだ。サイダーの匂いが鼻孔にしゅわーっと入ってくるのが快感なのである。　店ではそんなに話をしなかったのに、先に店を出たピーター・アーツは私が出てくるのを表で待っていた。　なんとなくそのまま彼の車に乗ってホテルに行く。寝る。「私さ、ヤリ友、探してるんだよね」　セックスが終わって、私は言った。「ヤリ友？　ふーん。いいけど。でも、俺、心ねえよ？　金ならあるけど。あっ、金欲しいんか、おまえ？」　ピーター・アーツは少しだけ笑った。「いらねえよ」　私も笑う。「だからヤリ友だってば。金銭抜きのセックスフレンド。そっちにとっても、そういう女がいるって便利なんじゃない？」「なんか俺、言葉しゃべんのがもうかったるくってさー、世の中で必要な言葉なんてそんなないだろ？　みんな、くっだらねえこと喋りすぎなんだって」　まったく異論はない。そのとおりだと思う。「だから、俺とおまえ、ちょっと実験してみない？」「実験？」「そう実験。一切、しゃべんのやめない？　たかがセックスフレンドなら、別に喋ることなんてねえじゃん？」「いいけど」「本当に何か喋りたいことがあったら金払って喋ろうぜ。それなら、どうでもいいこと、くっちゃべらないですみそうじゃん？」　相手に何か言いたいことがあったら百万円払って喋る権利を買うのはどうかと、ピーター・アーツは提案してきたのだ。「いいけど、それって、うっかり何か言っちゃったときも罰金みたいなのがいるよね？あなたは私より金持ちなんだからハンデがいるんじゃない？　二人とも百万じゃバランス取れないよ」「じゃ、俺が何かあんたに言いたいことがあるとき、もしくは、うっかりあんたに話しかけちゃったときは一千万円払うよ。あんたの場合は百万円。それならどう？」　それなら不公平はない。私は承諾した。「俺、心ないから」と言った彼の言葉は本当だと思う。　ピーター・アーツのセックスは、まだよく全部はわからないが、サドとかいう次元のものではない気がする。女に対しての愛情をまるで感じないのだ。おもちゃ、モノのように彼は私を扱った。　でも、実は私はそういうセックスを強烈に望む一面がある。だから、ピーター・アーツと初めてセックスした晩、あ、これはもうヤリ友になってもらうしかない、と即断したのだ。そんな鬼畜な相手とはそうそうめぐり会えるもんじゃない。　今後、連絡はメールで取ることになった。電話だと口きかなきゃならないからな。結局、私とピーター・アーツがまともに喋ったのは一日だけだった。　人のことは言えないが、奴はただれた人間だ。なんていうのか、人としての根本がただれきっとるわ（笑）。ま、お互い様なのかもしれない。　二人ともろくなもんじゃねえわな。
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