８月３１日
	綿埃舞う中で
	今日も生休。 本の見本刷りが届く。すげえドキドキ。 　編集者が苦労したという表紙カバーは、なるほどー、あんなふうに仕上がっ たのかー。えっちぃな感じ。もろエッチじゃなく微妙にエッチな感じ。 　痒いところに手が届かないような、もどかしいようなエッチさで、キャバク ラというものを見事に体現している（笑）。さすがプロの仕事だなあ。 　全体のイメージカラーは黄色で、けっこう目立つ。帯は背景が黒で文字が黄 色。色のバランスはすごくいい。 　帯コピーはデカ字で「キャバクラでモテるには」。 　すんごいストレート（笑）。直球ど真ん中だ。変に小賢しいのはやめてほし かったので、この直球はワシ的には気に入った。読んだらキャバクラでモテる かどうかは全然責任もてんが。 　タイトル、私は見本ができるまで間違って覚えていた。 「綾。ホステス。22歳。」だとばかり思っていた。 「綾。ホステス、22歳。」が真実のタイトルであった。 　マル、マル、マルじゃなくて、マル、テン、マルだった。 　はじめて知る真実。句読点が一か所違うだけで、収まりがずいぶん違うんだ なあ。 　ゲラで何十回も読んだのでもう中身は読まない。 　本をぱらぱらと眺めていて、ふと手が止まった。 　後ろには、その出版社の似た系列の本の広告が入るものだ。田口ランディ著 「スカートの中の秘密の生活」という文字が、私の本に一緒に入っていて、そ こはかとなくうれしくなる。ランディさんとちょっとだけ同居。 　私が何かを書きはじめたのは、ランディさんの影響だ。ランディさんの文章 を読んで、ああ、私も「書く」ってことをしてみたいと思った。 　えらく不思議な縁だなあと思う。 　縁といえば、もっと不思議な縁がある。 「愛より速く」という斉藤綾子の本がある。私はこのタイトルが大好きで仕方 がない。好きな本のタイトルベストテンをあげるとすれば、間違いなく三位以 内に入る。私はタイトルを愛してしまうと、その本が読めなくなるというクセ があって、だから「愛より速く」は未だ読んでいなかったりする。 　まさか、「愛より速く」を担当した編集者が私の本を担当してくれることに なるとは夢にも思わなかった。こんな偶然ってあるんだろうか。 　縁、である。 　奈々ちゃんが一般読者としてははじめて、ワシの本を読むことになった。 　今、私の部屋はすごく汚い。掃除機をあんまりかけていない。 　奈々ちゃんの家は、いつも掃除機の音がゴーゴーと鳴り響いていたそうだ。 　奈々ちゃんの母親は、埃とダニを家から駆逐することに、エネルギーのほと んどを費やしている。 　家は恐ろしいほどにきれいだったそうだ。それこそ髪を振り乱して、一心不 乱に掃除機をかけまくっていたそうだ。 「掃除機の音が恐い」と奈々ちゃんは言う。 　灰色のふわふわした綿埃が、今、そこらじゅうにある。バタバタ歩くと、ふ わわ〜っとそれらが舞うので、私は忍者みたいにそろそろと移動する。 　出版社から届いたダンボール箱を、奈々ちゃんはどさりと床に置いた。 　綿埃がぱーっと舞った。 　部屋はきれいにこしたことはないけど、別に散らかってても汚れてても、私 はさほど気にならない。 「NAOちゃん、精神病院に人をぶち込んでんだ。すげー。やることがやっぱり ちげー」 　奈々ちゃんはとりあえず楽しんで読んでくれたようだ。 　奈々ちゃんの右手の親指と人差し指がもこもこした綿埃を無意識につまんで いる。揉み揉みしながら読んでいる。 教育テレビでメールマガジンの特集をやっていたので見る。当たり障りのな いメールマガジンばっか取り上げてんなあ。「サイバッチ！」とか取り上げろ っての（笑）。 今日は「インターネットな女たち」というのもやっていた。 「インターネットな〜」では、今は亡き南条あやの姿があった。ネットで日記 を公開していた女子高生で今年の春、自殺した。自殺を予告（今となってはそ う読める）したような日記を書き、そのまま死んだ。 私は南条さんの日記が好きで読んでいた。ああ、この子が書いていたのか、 と思ってテレビ画面を見た。
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