８月１８日
	濡れ場の馬鹿力
	火事場では、出るはずのない力が出るという。持ち上げられるはずのないタ ンスを担いでしまうという。 　マンションのベランダから落ちる我が子を目撃した母親が、猛然とその場か らダッシュ、そのとき母親はカールルイスでも不可能なスピードで走り、落ち てくる我が子を腕に受け止めた。とかいう話もホントかどうかは知らないが、 聞いたことがある。 　通常ではありえない力を、人は緊急時に出せるのかもしれない。 　純ちゃんのダンナさんが徹夜で会社に泊まりだというので、仕事が終わって そのまま、純ちゃんの家に直行した。 　少し早いが、私のバースデープレゼントをもらいに行く。 　純ちゃんのオナニービデオを撮影するのだー！　監督はもちろんワシ。イッ シッシッ。 　監督ってすげえ楽しいな（笑）。 　撮影を開始してしばらくが、純ちゃんはやはり一番恥ずかしがっていた。 「タンクトップ脱いで」 　という最初のリクエストには素直に応じたのだが、その次がなかなか進まな かった。 「パンツも脱いで、両足を大きくＭ字に広げて」 　私は言う。 「カ、カメラ、イヤ。やっぱり恥ずかしい」 　純ちゃんは、股間に当てた手をどけることができない。 　純ちゃんにとって、ビデオに撮られるのははじめての経験なのである。 　こういうときは同じ言葉を何度も呪文のように繰り返すのが効く（笑）。 「ダメ、どけて」 「や……」 「手どけて」 「いや……」 「どけて」 「や……」 「どけて」 「や（声はかすれて聞こえないけど、そう言ってる口の形）」 「NAOちゃん（ギャー、恥ずかしいな、ワシ。もしかして、気を許してる人に は己をちゃん付けか？）の誕生日をお祝いしてくれないんだ。そうなんだ。純 ちゃん、プレゼントくれないんだ」 　途中で、こんなふうに苛めてみるのも、ものすごく効果的だ。 「そんなことないっ！」 「じゃ、どけて」 「う、うん」 　よっしゃ（笑）。純ちゃんは、ようやくワレメを全開にしてくれた。 　その後の撮影は快調に進む。ローター、バイブ、ディルドを使い、純ちゃん は何度も体をびくびくさせた。 「カメラでぜんぶ撮っちゃってるよ」 　イッてる最中に、私が意地悪く言うと、 「んんんっ！　んんんっ！」という純ちゃんのイッてた声が一瞬中断し、それ から「いやーーっ！」と悲鳴に近い声で叫んだ。 　イクのが止まらなくなって、体がびくっびくっと大きく跳ねる。 「わー、いやらしい顔」 　私はさらに意地悪く言う。 　たぶん、純ちゃんは今まででもっとも長い時間、イキっぱなしになったので はないか？ 　撮影が終わり、二人でモニター画面を見る。 「純ちゃん、もうすぐ体がびくびくするよ。あ、ほら、イキはじめた」 　なんて楽しくお喋りしているときに、それは訪れた。 　ガチャッ。つづいて、こちらに歩いてくる人の気配……。 　うそー！　徹夜じゃないのか、ダンナさんー！ 　ラブジュースがぐっちょりついた数々のおもちゃ、脱ぎっぱなしの純ちゃん のパンツ、タンクトップ、真っ裸の純ちゃん……。 　撮影後、純ちゃんと一戦交えて、同じく裸のワシ……。 　神業？　奇跡？　あのときの二人をなんと表現したらいいだろう。 　おそらく、十秒は無かったはずだ、ダンナさんが現場の部屋に到着するまで のタイムは。 　ヤバいブツを大慌てで仕舞い、何事もなかったかのように服を着、 「ど、どうも、おじゃましてます」 「お、お帰りなさい、あれ、泊まりじゃなかったの？」 　と二人微笑むまでに、たぶん七秒。これ、人間業じゃねえよ。火事場ならぬ 濡れ場の馬鹿力か？ ちょっと違うか？ 　もう一度あのタイムで同じことをしろと言われても不可能だ。絶対に無理。 今だって不思議なのだ。 　よく、あんな早業ができたもんだよなあ。しかし、確実に、私と純ちゃんの 寿命は、ともに一年は縮んだのだった。 「NAOちゃんと付き合っていくの恐い。いいのかな、私、こんなことするよう になっちゃって」 純ちゃんは、時々、心配そうに言う。 私は純ちゃんのこと、好きだー。 どれくらい好きかというと、もう私の部屋のテレビを窓からぶん投げて、冷 蔵庫を放り投げて、ベッドを窓ガラスにぶつけて、ガラスの破片をガッシャガ ッシャ飛び散らせて、ワープロをガシャーッと放り投げて破壊して、そこらじ ゅうのビルに浅間山荘の鉄球みたいなのをガンガンぶつけて倒壊させて、ニフ ティにアクセスした者全員を二重ログインにさせて混乱させて、ビルゲイツの ケツの穴に巨大バイブをつっ刺して、iマックを富士山の頂上からごろごろ一 万個転がして、ムツゴロウ王国を踏みつぶして、ピースボートを海底にぶくぶ く沈ませて、ゴジラみたいに街をワシャワシャぶっ壊して、好きーって言いた いくらい、めちゃめちゃに好きだー。 いいじゃない、恐くなんかないよ。
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