８月１０日
	隙間女
	奈々ちゃんとプール。 　マンションを出て、ふっと視線を感じて振り向く。やはり……。 　三階から、隙間女が見ーてーいーるー。 　カーテンの隙間からじっと見ーてーいーるー。恐いよー。 　この人は、ほとんど外出していないのではないか？　いつも部屋の中から、 下を通る人たちを覗いているのだ。 　私が出勤するときも必ず、カーテンの隙間から覗いているし、帰宅するとき も見られている。なんてったって、昼よりも夜が恐い。 　隙間女の黒いシルエットが、カーテン越しに浮かび上がって見えるのだ。ホ ラーなのだ！ 　年中、監視されているようなヤな感じ。どんなに帰りが遅くても、午前三時 とか四時でも、隙間女のチェックからは逃れられない。 　あー、また明かりついてやがる……。と、思いながら、私はマンションへと 歩く。一体いつ、彼女は寝ているんだろう？？？ 　行きの電車のホームで、子どもが母親からすごい剣幕で怒られている。 　ジュースを服にこぼしたらしい。 　暑くてイライラするのもわかるが、それにしても尋常でない怒り方だなあ。 まわりの人たちも驚いて、その親子を見ている。 　怒鳴り声って、どうしてこうも人の気を滅入らせるのだろう。 　聞いてるだけで、どっと疲れてしまう。 　母親は、びーっと泣きやまない子どもの頭をぶった。はあ……。 「ちゃんと持ってないから、こぼしちゃうんでしょーーーっ！（ごんっ）」 「ごめんなさーい。ごめんなさーい」 　子どもは、しゃくりあげながら、泣いて謝っている。 　浮輪につかまって、流れるプールでゆらゆら。気持ちいい。 　奈々ちゃんは、バーバパパの浮輪。奈々ちゃんはバーバパパが大好きで、何 かというと、それを買ってくる。私はトトロ。 　人工の岩場のあいだを、ぐるぐる滑り落ちるスライダーが気に入って、二人 で何度もやる。 　プールは目の保養になる。歩きながら、半ケツを直してる女がいっぱいいて グフフフ。ええなあ。 　帰りは寿司屋で夕飯。 　行きつけの店なので、言わなくても私のはサビ抜きにしてくれるのでラク。 　奈々ちゃんを、ここに連れてくるのははじめてだった。 　玉子焼きの味にびっくりしていた。あんまり気に入って、「美味しい美味し い」言うので、店の大将が気を良くして、帰りに玉子焼きをお土産に持たせて くれた。ラッキー。 大将の寿司の握り方は、なんだか踊りを踊っているような、腰のあたりを振 るような握り方で、見ていてとても楽しそうだ。 「かわいこちゃんにはサービスしちゃうんだからもう！」 大将は奈々ちゃんの両手をいやらしく握って、玉子焼きを渡す。 私はビールをジョッキで三杯飲んだ。いい気分。 　コンビニで花火を買って帰る。 　やっぱり、隙間女は上からシルエットになって覗いていた（笑）。 　花火の火は、花火から花火にリレーでつけるのが楽しい。 　シメは線香花火。 奈々ちゃんは、「がっこ、どうすっかなあ。やめちゃうかなあ」と言う。 「これ、Ｍ男の上でぱちぱちやったらきれいかもなあ。花火プレイ。でも、火 の玉が落ちたらヤケドするかなあ」と、私は全然別のことを言う。 昨日、ジャッキー佐藤が死んだというニュース。四十一歳。胃ガン。
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