8月9日
  花火と陰毛
 

   今年の夏はよく花火に行った。毎週のように近辺の花火大会に出かけた。い
や、来週も行くし。
 花火は寝ころんで見ると、首が疲れなくていい。
 今日は月曜だというのに花火大会がある。三つ先の駅。
 まず私が胡座で奈々ちゃんをひざ枕してやった。右手で奈々ちゃんの髪を撫
でながら、私も夜空を見上げる。

 花火はとにかくいいね。気分がスカーッと晴れる。
 シュルルル〜。ドーン。バチバチバチバチ。
 音の三段階のリズムも心地いいし、光の雨が降るのを見てると、いろんなも
のが軽くなる気がする。あんなこんなが、どうでもよくなってくる。

 千佳ちゃんが仕事で韓国に行ってから半年がたった。
 こんなに長い間(って半年で大げさか)離れて暮らしたのははじめてだ。 
 五年以上、いつもひっついて暮らしていた。
 長年の夢が叶い、やりたい仕事を実現し、韓国に行く千佳ちゃんのあとを、
当然、私も追っかけていくつもりだった。住む場所なんか、私はどこだってい
いのだ。
 なのに、千佳ちゃんは、「NAOちゃんは来ちゃだめ。いつも、あたしのあと
ばっかり追いかけてちゃだめ。NAOちゃんは自分を持たなくちゃだめ。あたし
たちはしばらく離れていたほうがいいよ」
 と言って、自分だけ行ってしまった。

 五年も一緒に暮らしていたのに、私は千佳ちゃんと家族のような感じになれ
なかった。
「まだドキドキするんだ、一緒にいて」
 友達に言うと、のろけだと思われた。
「いいね、いつまでも新鮮で」、みんながそう言う。
 先日、「空」のマスターに、
「それって、NAOが千佳ちゃんを他人にしてたからじゃない? べたべたくっ
ついているようでも、決してNAOの中に踏み込ませなかったからじゃないのか
なあ」と言われて、ハッとした。

 花火を見てると、難しいことは頭からするーっと抜けていく。
 ただ、千佳ちゃんに会いたい。すごく会いたい。それだけだ。
 そんなことを思いながら下を見ると、奈々ちゃんと目が合った。
「何考えてたん?」
「奈々ちゃんのこと」
「ウソでー。ウソでー。ウソつきー」
 奈々ちゃんは、私の腹にパンチする。
 ひざ枕を交代することにした。
 本日の奈々ちゃんは、パンツを見てくれと言わんばかりのミニスカート。剥
き出しの太ももに私は頭をのっけた。

 つい悪戯したくなる。奈々ちゃんの太ももの間に、私は右手を伸ばす。
 パンツの上から、ワレメをなぞる。
 パンツの中に手を入れると、奈々ちゃんの下の毛はふさふさとやわらかかっ
た。一緒に風呂に入るときは、私は必ず、奈々ちゃんの陰毛にリンスしてやっ
ていた。過去、付き合った彼女には全員、そうしてきた。
「こうすると、やわらかくなっていいんだよ」
「ふーん」
 リンス効果はすぐにあらわれてきた。奈々ちゃん自身も陰毛リンスを気に入
って、今では毎日自分でリンスしている。
 奈々ちゃんのやわらかい陰毛を、私はずっと手で梳かしていた。
 千佳ちゃんは、韓国でもリンスをつづけているだろうか。

 自分がないってなんだろ。
私が自分の命の期限を決めていることなんかを言っているのかな。私の理屈
はいつも簡単でシンプルだ。
 千佳ちゃんが生きているあいだは私も生きてる。単純明快。
 ホントあんまり長く生きてたくないなあと思っていた私にとって、それは進
歩なのに。期限を決めたら、私はとてもラクになった。何をしょってたんだか
肩の荷が軽ーくなった。しょってるものもわからないのにラクになった。
 千佳ちゃんが三十で死ねば、私も三十で死ぬ。千佳ちゃんが百まで生きれば
私も百まで生きる。とても前向きだ。決して後ろ向きじゃない。いや後ろ向き
なのかな。人に依存してるってことなのかな。依存しまくってるってことなの
かな。千佳ちゃんはそう思っているのかな。わからん。後ろ向きでも依存でも
何でもいいや。
 千佳に会いたい。





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