８月８日
	女心と水玉パンツ
	ホームページを作った。 　これ以上シンプルにできないというほどの、素っ気ないホームページ。 　画像いっさい無し。テキストだけである。表示もサクサクと快適。 　私はパソコンを持っていないので、大介に作ってもらった。大介は月収百万 円の収入を捨てて、会社員からパチプロになってしまったロクデナシである。 　ロクデナシなので、先日も街で大乱闘の喧嘩。右腕を負傷したらしい。 「こんな生活もういやっ！ 大介殺して私も死ぬ！」 就職の気配もなく、何年もヤクザな暮らしの夫に、奥さんが包丁を握り、そ の手をぶるぶる震わせたことも一度や二度ではないらしい。 　そんなロクデナシなのに、あのセンスはどこからくるのだろう。 　はじめてホームページを見たとき、青い波間にテキストが浮かんでるみたい だなあ、と思った。私の文章が、ゆらゆらと海に浮かんでいるみたい。そんな ふうに思った。こんなふうに作って！　と細かく頼まなかったのに、私の望み どおりのホームページを作ってくれた。とても気に入った。 　右腕に包帯を巻き、左手一本で作りおえた大介は、高らかに言った。 「約束のおっぱいたのむぜ！」 　わずか半日で集中的に情熱的に作ってしまった理由は、一枚のおっぱい写真 であった。はー、男ってねえ、アハハ。 　女装レズプレイの客が来る。 　ズボンを脱ぐと、いきなり女もののパンツを履いていた。 　ガタイがいいＭ男なので、パンツがもう伸び伸び。ピンクの水玉模様が伸び きって、楕円形になっている。 　ブラジャーもしてきている。小太りなので、胸があるのだ。 　ブラはピンクで、パンツとおそろの色にしたらしい。 　ブラを取って、パンツ一枚になると、Ｍ男はおっぱいを両手で押さえ、 「いやん！　恥ずかしい！」と身悶えた。 　い、いやん？　こいつってば……おもしれえ（笑）。ノリノリじゃねえか。 やる気、満々じゃねえか。 　こうなると、私もちょっとウキウキしてくる。とことん、やってやろうと思 う。かわいいＭ男だなあ。 　オナニーさせれば、「いやんっ。見ないでっ。恥ずかしいのっ！」と言いな がら、まさにノリノリで、顔を真っ赤にしてチンコをしごく。 「人前でオナニーしちゃうなんて、チエコって本当にエッチなのね。恥ずかし くないの？」 プレイ中は当然、女性名なのだ。 「いやっ！　チエコ、そんなエッチじゃないもんっ！」 　アッハッハッハ。まじ、おもしろい、このＭ男。でも、ここで爆笑してしま ったら、プレイが台無しだ。あくまで、女王様のように私は言う。 「そうね。チエコはエッチじゃないわよね。じゃ、エッチじゃないんだから、 エッチな声なんか出るはずないよね。もし、エッチな声出したら、そのときは お仕置きするからね。わかった？　チエコはエッチじゃないんだから、だいじ ょうぶだよね？」 　Ｍ男は「うん」と返事する。が、一分もたたないうちに、「あんっ」と声が 漏れてしまう。 「今のは何？　何か聞こえたけど、私の空耳かしら？（んなはずあるか。はっ きり聞こえたよ、あんって）」 　私は意地悪く訊く。 「そ、そう、空耳よ」 　Ｍ男はホッとしたように言う。 　こうなると、ツーと言えばカーと響くみたいなもんである。阿吽の呼吸とい うやつだ。 　またすぐに、「あっあっ」とＭ男は声をあげてしまう。この、「あっあっ」 も女を意識した声で、ちょっと高い声なのだ。 「何よ！　チエコ、いやらしい声出してるじゃないのっ！　すごくエッチな声 が出てるわよっ！　これじゃお仕置きね！」 　私は叱った。すると、どうだろう。Ｍ男ってば、こいつってば…… 「いやっ。言わないでぇ」と、すすり泣きをはじめるではないか！ 　いやー、チエコ、サイコー！　いいプレイだなあ。 　チエコにはお仕置きとして、スパンキングをした。まあ、全然お仕置きでは ないんだけどな、Ｍ男にとっては（笑）。 　ＳＭクラブは一歩間違うと、三流学芸会と化す危険性がある。 　プレイ中に素になったらサイアクだ。Ｍ男が自分を捨てきれないで、途中で ニヤけるようなことがあったら、こっちもド恥ずかしい。 今日の女装Ｍ男みたいなかわいいＭ男なら、こちらも通常以上の力を出した くなるというものだ。 　日常持ってるプライドを捨てられる場所なんてめったにない。せっかく来る のなら、プライドぜんぶ捨てないと意味はない。 チエコは、プレイが終われば、ふつうの男に戻って帰っていく。 とても恥ずかしがり屋の、幻の女の子なのである。
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