8月6日
  犬ジジイ
 

   公園に、犬ジジイがいる。いつも自転車の前カゴに白い犬を入れている。か
わいらしい犬なので、子どもたちが寄っていく。
 今日も、犬ジジイは子どもに囲まれていた。
 だけど、いい光景、には私には見えない。なぜなんだろう、と前から不思議
に思っていた。一見すると、人のよさそうなジジイなのだ。
 直感というか、生理的にというか、どうにもこうにもジジイからイヤなもの
が伝わってきて仕方ないのだ。

 二週間前、私は目撃してしまった。
 ジジイは一人だった。子どもたちはまわりにいなかった。
 ジジイは、前カゴの中の小犬の頭を殴ったのだ。
 コンコンコンコンコンッ。と、思い切り、拳骨で何度も殴っていた。犬はキ
ャインッ、と鳴いた。
 ジジイは犬を好きではない。私は確信した。絶対に。

 今日、「空」のマスターから、犬ジジイの知られざる過去を聞いた。
「あのジイサンさ、二十年前に子どもにイタズラして捕まってんだよ。新しく
このへんに来た人はさ、ほら、公園に子ども連れてきてるお母さんなんかは知
らないわけよ、そんなこと。またイタズラするってことは、まあもうないとは
思うけど、ジジイにとっては犬は単なる道具で、子どもを、ってか女の子だけ
どさ、おびき寄せるダシでさ、そんで、寄ってきた女の子をエロな目で見て楽
しんでんじゃないかと思うんだよな」
 ありえる話だと思った。
 ジジイは、女の子が来なくて、あのとき、イライラしていたのだろう。
 マスターの話を聞いて、口いっぱいに墨を飲んだような苦い気分になった。
 墨は私の過去につながっている。天然パイパンだった遠い昔のことだけど。

 このあいだ、深夜のCBSニュースで、アメリカのメーガン法を取り上げて
いた。メーガンとは、ロリ野郎に殺された女の子の名前だ。
 ロリ野郎が自分の近くに引っ越してきたら、それを知る権利なのだそうだ。
 すげえなアメリカ。いかにもアメリカらしいな。いろんな意味で。
 番組の中で、ロリ野郎が顔と実名を出してインタビューに答えていたのが笑
えた。本当にアメリカらしくて大笑い。
 番組に出ていたロリ野郎は、殺人までは犯していない。
 奴は「住民のみなさんとは仲良くしたいです」と言っていた。
 しかし、「女の子は見ないようにします。見たら、また自分が間違いを犯さ
ないか自信がないので」というようなことも言っていた。ある意味とても正直
で、これまた笑えた。
 見ないようにする。間違いを犯さないために。なるほど。いい心掛けだね!
 と誰が思うだろうか。遠い島国の、縁もゆかりも無い、しがない一SM嬢で
さえ、ちょっと違うよなそれ、って思うぞ。





  ←Back    Index   Next→