３月１９日（日）
	花の連鎖
	たっけえ。花屋の花、高すぎ。お彼岸価格ってやつだな。 　彼岸用に売ってる店先の切り花を見たら、カーネーションと菊とスターチス が一本ずつ入ったワンパックで八百円だった。まあそういうもんだよな。 「この紫のはなんて名前？」 　花屋の前で奈々ちゃんがワシに訊く。 「スターチス。スターチスっていうんだよ」 「ふーん。きれいだね」 　奈々ちゃんも少しずつ花の名前を覚えてきてる。 　山田さんちのおばあちゃんが言ったように、花が好きってことはきっと連鎖 するものなんだろう。 　若い男の子が花を買いに来ていた。 「えっと何か十五本で花束にしてください」 　緊張した顔で彼は店員さんに告げる。ああたぶん彼女の誕生日なんだろうな あ。店員の男性はどうしてこんな恐そうな男が花屋で働いてるんだと可笑しく なるようなゴンタ顔の男だ。 「彼女へのプレゼントなら自分で選べよ」 　男がドスのきいた声で言ったので、若い男の子はさらに緊張してしまったよ うだ。「はいっ」と男の子は返事をする。 　しばらく店内の花を眺めていた男の子は、ピンクのカーネーションを指さし て「これをください」と言った。 「これ、なんて花か知ってんのか？」 「いえ知りません」 「カーネーションも知らねえのかよぉ。それくらい覚えとけよ。今日、おまえ が買った花はカーネーション。覚えたか？」 　店員の男は威張って言った。客に「おまえ」と言っていた（笑）。今まで見 かけなかった人だからアルバイトなのかな。 「はいっ」 　男の子はまた緊張した声で答えた。生まれてはじめて恋人のために花を買っ たんだろう。
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