女3P物語
　


　 　男友達と、バージン相手は面倒か、という話をしたことがあった。
「俺は遠慮したいね。面倒くさくってしょうがないよ」
　私も彼といっしょの意見だった。
「だよね。私もそうだよ。童貞の男とはしたことないけど、バージンの女の子
とはしたことあってさ、けっこう面倒なんだよね」
　そう言うと、彼は笑った。
「ああ、なるほど。バイだとそういうこともあるか。けど、なんか、それって
おかしいな。処女の相手が女ってのも、すげー話」
　バージンといっても、細かく分ければ、二種類あるのかもしれない。誰から
もそういこうことをされたことのない女の子（これが正真正銘のバージン）と
男とは経験あるけれど、女とは初めての女の子。どっちのバージンにせよ、自
分がレズあるいはバイだと自覚している女の子なら、そうやっかいではない。

　問題は女の人を好きな自分にいまひとつ迷いがある場合だ。
　これだと土壇場でで、「やっぱり女の人とこういうことするのは恐い」など
という爆弾をもらって、ここまで来てそれはないんじゃない？　とがっくり意
気消沈してしまうことになる。このセリフを聞かされたことがけっこうあるの
だ。

　口へのキス、胸へのキス、そのあたりまではスムーズにいく。しかし、下半
身にキスしようとすると、「ちょっと待って。なんか恐い……」となることが
多いのだ。

　私と千佳は「友達」ということになっている。時々、終電が無くなってしま
った千佳の大学の友達から、「ごめん、今日、泊めて！」と電話がくることが
ある。私がホステスの仕事から帰ると、「あ、おじゃましてまーす」と、知ら
ない赤い顔がビールを飲んでいたりする。
　千佳は、本当は泊めたくはないらしい。「ケチって思われたくないから」と
いう理由で渋々泊めさせている。
「直ちゃんが何かしでかしそうでイヤなの」とも言う。ずいぶんと信用が無い
ものだ。

　時には私もいっしょに話す。同世代なのだから話しは合う。何度か泊まりに
来るうちに、次第に仲良くなる子も出てくる。
　ユキちゃんが、その一人だった。千佳も活発なほうだが、ユキちゃんという
子は、これがまたものすごく元気のいい子だった。サークルの新入生勧誘でも
先頭に立って一年生に「こんにちはー」と声をかけるタイプだそうだ。
　千佳と彼女は同じサークルで、二人して新入生をかなりの数、誘い込んだら
しい。
　ユキちゃんは、一学期ではなく二学期に学級委員に選ばれるタイプの子だ。
　男からも女からも人気があるクラスの中心人物タイプだ。そういうところが
千佳と似ている。
　ユキちゃんの話はおもしろくて、いつも私は楽しい気分になる。
　いつものように三人でスケベ話をしていたときだ。
「ねえねえ、もし、友達の女の子から好きって告白されたとして、それ以後、
ふつうに友達づき合いってできる？」
　ふと、ユキちゃんが悪戯っぽく言った。
　千佳の表情がさっと変わった。
「ユキちゃんはできる？」
　私は聞いた。
「あたしはできないと思う。やっぱり引いちゃうと思うな」
「好きって言われたことあるの？」
　私はさらに聞いてみる。
「ないけど……」
「こんなふうにされたら、引いちゃうんだ」
　私は、ふざけてユキちゃんの口にキスした。
「引いちゃう、引いちゃう」
　彼女は笑ってみせた。私も笑った。千佳だけが笑っていなかった。

　私はユキちゃんのことを好きになっていた。
　そして、彼女も私に好意を抱きだしていることを薄々わかっていた。ユキち
ゃんは男性経験はある。でも、私とそうなることの予感に脅えて、予防線を張
っていたのかもしれない。　
　脅えていたのなら、うちに泊まりに来なければいいのだが、ユキちゃんは前
にも増して、頻繁にうちに泊まりに来るようになっていった。コンパで終電が
無くなって、友達とカラオケしてて終電が無くなって……。よく終電が無くな
るようになった。

　ある冬の晩、客用の布団で寝ているユキちゃんの隣に私はもぐり込んだ。
　驚く彼女に、私は「黙って」の言葉のかわりに人差し指を口に当てた。すぐ
に唇を押しつけた。私の舌が彼女の舌に絡んでいく。彼女のそれはただ脅えて
いる。でも唇を閉じようとはしない。私の舌の動きにぎこちなく合わせようと
しているユキちゃんの震える舌がかわいかった。
「私は女の人ともこういうことするけど、ユキちゃんは初めてなんだよね？」
「レズなの？」
「バイ。両方、好きになる」
　彼女の瞳に驚きが浮かんだ。
「あたしは……よくわからない。付き合ったのは男だけ。けど、女の人を好き
かもしれないって思うときもあった」
「ユキちゃんは、私のこと好き？」
「…………かもしれない」
　声をひそめて、彼女は言った。
「胸にキスしてもいい？」
　恥じらいながら、無言で彼女はうなずいた。パジャマ代わりに私のトレーナ
ーを彼女は着ていた。その中に私は頭をもぐり込ませた。ブラジャーをたくし
上げ、そこに唇をつける。小さな実はたちまち硬くなった。私は長い時間、そ
れを舌で転がした。

　そのまま舌を下半身に滑らせた。突然、彼女は身をよじった。
「だめ。やっぱり恐い」と言う。
　出た……。私にとって、このセリフは「お化け」みたいなものだ。
「わかった。じゃ、もう金輪際、指一本、ユキちゃんには触れない。うちにも
二度と泊まりに来ないで」
　私はきっぱり言った。こんなに乳首が立ってるくせに、もうパンツを濡らし
ているくせに、いまさら何を言ってるんだと思った。

　彼女は今にも泣きだしそうな顔になった。しばらくして、「キスして……」
と消え入るような声で言った。
「ここに？」
　私は彼女のパンティーを触わる。
　いつもの元気は影も形もなく、彼女は黙ってうなずくだけだ。
　クリトリスを丁寧に舌で弾くと、彼女の腰は震えだした。奥からは、温かい
ものがあふれてくる。彼女の押し殺した吐息が時々、漏れる。
「ち、千佳に聞こえないかな？」
　彼女は上気した声で心配する。
「だいじょうぶだよ」
　私は、聞こえればいいと思っていた。
　千佳が大好きなのに、千佳が傷つくことばかりしたくなる。

　翌朝、何事も無かったかのように、私たち三人は、朝食をとった。ユキちゃ
んは帰った。新聞の間から広告チラシを抜き取り、私は見ていた。
「はい、本体」
　新聞を渡した。私はふだん広告とテレビ欄しか見ない。
「ねえ直ちゃん」
　新聞に目を落としながら千佳が言った。
「ん？」
「うちで、そういうことしないで」
「そういうことって？」
「そういうことはそういうことっ！　するなら外でして！」
　千佳が立ち上がった。私の後ろにつかつかと歩いてきた。読んでいた新聞を
私の頭にばさっと被せた。毬でも抱きしめるように、千佳は私の頭をきつく抱
いた。
「知ってたの？」
　新聞紙で前が見えなくなる。
「ユキが来るときは、あたし、いつも寝てなかったよ。寝られなかった。直ち
ゃんが手を出すんじゃないかって。けど、まさか、あたしと一つ屋根の下で、
あたしの友達とそういうことするはずはないって思ってた。あたしの友達だよ
っ！　いくらなんでもそんなことあるわけない……あるわけないって思うでし
ょっ！　直ちゃんは、どうしようもないね。本当の本当にサイテーだね」
　新聞紙を頭にぎゅうっと押しつけられる。
「く、苦しいよ、千佳ちゃん」
「直ちゃんはサイテー」
　ぐしゃぐしゃとこすりつけられる。千佳のイライラが伝わってくる。

　ようやく目の前が明るくなった。
　くしゃくしゃになった新聞を再び千佳が読みはじめた。
　私はそっと千佳の顔を覗き見る。千佳の顔は真剣に怒っていた。私はぞくぞ
くした。しばらくのあいだ見とれていた。
「ねえ、こんどは三人でしようか？」
　千佳の顔がさらに険しくなった。
　こんどは、千佳が私の顔をじっと覗き込む。長いこと見つめる。
「直ちゃんは、もっとちゃんと生きてよ……」
　千佳は泣いた。

　鏡を見た。千佳に新聞をこすりつけられたせいで私の顔はちょっぴり黒く煤
けていた。よく見ると、小さな文字が頬に転写されていた。インクをもらって
しまうほど私の顔は火照っていたようである。
判読しにくいかすれた文字をなんとか読んでみる。
「前夜の大雪で」という、そのときの私と千佳にはまったく関係ない言葉に私
はなんだかおかしくなった。
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